一椀の飯を盗んだために十九年間の牢獄生活を送らなければならなかった岩吉は、大政奉還の大赦令により出獄したが、世間は彼に冷たかった。そして危く再び悪に走ろうとしたときミリエル司教は、彼に暖い手をのべ、無限の神の愛を教えた。天刑病として人々に忌み嫌われている男を救ったことから、岩吉は、改良絣の織機の操作を伝授され、事業と徳行を以って知られる福岡県第三区長、松野栄一として更生したのも暫くのことで、自分の前名岩吉の名を負って重罪裁判にかけられる男のいるのを知ると、苦悶したが、ミリエル司教の教えを思い出して自ら名乗り出て罪に服することになった。しかし唯一の心がかりは、転落の女お絹と、彼女に救ってやると約束したその娘小雪のことであった。折しも護送船が難破したのに紛れて脱出、小雪を無頼漢長吉の手から救い出して、何処へともなく姿を消して行った。月日は流れた。
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